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広島高等裁判所 昭和46年(く)5号 決定

少年 D・H(昭二八・一・一生)

主文

原決定を取消す。

本件を広島家庭裁判所へ差戻す。

理由

本件抗告の趣意は記録編綴の法定代理人親権者父D・S作成名義の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

所論は、要するに、原決定の処分は重きにすぎるというのである。

そこで、本件少年保護事件記録並びに少年調査票を精査し、当審事実調べの結果をも参酌して検討するのに、本件非行は原決定認定のような虞犯行為であるが、少年のこれ迄の生活歴、既住の非行(強盗)による保護観察期間中の経過、殊に高校中退後の虞犯性の強い生活(不良交遊、転職、無為徒食、○取○子との無断外泊等)、少年の自己中心的で、無気力で、怠惰な性格、しかもその性格が固定化しつつあることからすれば、既に相当厳格な保護対策を講ずる必要がある段階に来ていることは否定しえないところであつて、原決定の処分も首肯しえないではない。しかしながら、本件非行は虞犯行為であつて、虞犯性の亢進はみられるが犯罪的傾向が著しく亢進しているとは思われないこと、本件非行やこれ迄の放逸的な生活の原因は少年に家庭で疎外感を抱かせた両親の少年に対する態度にも帰因するところが大であつて一概に少年の心得違い、少年の性格にのみ帰することは出来ないこと、両親は原審並びに当審を通じて右の点を指摘されて家庭の在り方についての認識を改め、原決定後、度々少年院に少年を訪ねて、少年との意思の疎通をはかつて、少年との関係もようやく改善されつつあり、少年の働き場所を確保するなど少年を受けいれる態勢が整つていること、原決定後、○取○子は転居して同女との関係が清算されていること、少年自身も原審で少年院送致の処分を受けたことによつて、これ迄の生活態度や本件非行を充分反省し、両親の許で更生したい意欲をもつに至つていることなどを考慮すると、少年を今直ちに少年院に送致しなければならないほどの要保護性が存するものとは認め難く、少年を試験観察に付して、なおその行状を見守り、これに応じてその方途を決めるのが相当であると思料され、原決定の処分は著しく不当であるといわねばならない。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項により、原決定を取消し、事件を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 幸田輝治 裁判官 村上保之助 一之瀬健)

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